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山手線の中で、言えなかった一言

2026/01/30

山手線で、目黒に向かう途中のことでした。


新宿から、ベビーカーを押した

ひとりの若い女性が乗ってきました。




赤ちゃんは、わーわーと泣き叫んでいます。


それにつられるように、車内の空気が少しずつ張りつめていく。


お母さんは、必死にあやしながら、

周りに何度も頭を下げていました。


「すみません…すみません…」


ひとりのおばさんが、

やさしい声でこう言いました。


「大丈夫よ」


その一言に、少し救われた空気。


でも、車内の奥のほうでは、

理由のわからないピリピリした視線が、確かにありました。




その光景を見て、

ふと、甥のことを思い出しました。


僕の甥は、自閉症です。


幼い頃は特に、癇癪がひどく、

突然わめき、泣き叫び、

噛みついたり、自分を傷つけてしまうこともありました。


周囲に迷惑をかけないように、

できる限り公共交通機関は避け、

車やタクシーで移動していました。


それでも、

通院のために電車を使わなければならない日もあって、

その時間は、正直、地獄のようでした。


あの頃の姉の気持ちを思い出して、

胸の奥が、きゅっと痛みました。


人は、見たいように見る。


余裕がなくなれば、

思いやりも、少しずつ削られていく。


社会は便利になったけれど、

心はどこか、閉じて、ピリピリしている。


それでも。


それでも、

あのおばさんのように、

何気なく寄り添ってくれる人が、ちゃんといる。


本当は、僕も言いたかった。


「大丈夫だよ」

「気にしなくていいよ」


でも、恥ずかしくて、

声を出すことができませんでした。


だから、心の中で、そっと。


あのおばさんに、ありがとう。

そして、あの若いお母さんに、大丈夫だよ。